第29回若手の会は1996年9月1日から2日、大学生協会舘、コープイン渋谷において,開催されました。参加者の関心が最もインターネットに高かったため、「インターネット、現在・過去\・未来」というテーマで、3人のプレゼンテータに話題を提供していただき、28回に引続きディ\スカッション形式で会を進めました。
奈良先端科学技術大学院大学の馬場始三氏に災害時のインターネットの役割についてという題で,馬場氏自身が携わっておられるWIDE Project の 第1回インターネット防災訓練の経験をもとに,災害とインターネットの関わり,社会基盤としての受け入れられ方についてお話いただいた.
インターネットは,過去から現在にかけては,学術研究用ネットワーク,特定 コミュニティのネットワーク,一般の企業や個人の活動の場,政府や自治体の 情報ネットワーク基盤,医療機器による医療情報を交換する場などとして利用 されている..取り扱う情報が高度化,複雑化し,社会活動に不可欠な情報サー ビス提供ができるようになり,情報ネットワークの中心であるインターネット の社会的な役割と責任が増大したことを踏まえて,このプロジェクトは,都市 型の大規模災害における,安否情報,被災者の衣食住に関する生活情報,被災 者への支援情報,避難誘導,危機管理のための情報などをインターネットを利 用して伝達するという考えに基づいているものである。
1996年1/17〜18にかけて行なわれたインターネット災害訓練において, 日本国内のネットワークユーザを対象とし,生存者情報データベースの登録・ 検索を行なう,IAA(I am alive)訓練,通信衛星を利用した丈夫なバックボー ンネットワーク運用の試み(WISHBONE訓練)をおこなった結果の,課題がいくつ かあげられた.ハード,ソフトそれぞれに対応が必要である.大規模な災害のために通信機能 が麻痺し,通信できないのではインターネットを利用することができない.衛 星,無線などを通してインターネットを利用できる方法が必要である.ソフト の面としては,災害のために,危機の状態ではそれほど人間に時間の余裕があ るわけではないので容易にデータの作成などが可能にすることが必要であると 考えられる.
このような話を受けて,ディスカッションでは, 一般の人がいかに簡単に使えるようにするかという問題に対して, 電話代が高いこと,インターネットに対して一般の人と研究者との解釈が違う ことなどから,一般の人にとっては,インターネットを使うにはまだ敷居が高 く,インターネットは社会的基盤になるにはまだまだ発展途上である.したがっ て,災害時に本当に役立つようにするためには,インターネットを普及させる 必要があるということが一つあげられた.
また,災害のために危機の状態で,本当にインターネットを利用して生存を知 らせることができるかどうかという問題に対して, 一人一人にIDを振り分けて,その人がアクセスしたり,何かをしたら,生存が 確認できるようにするなどという方法もあげられ,さらに,計算機資源だけで はなく,電話,クレジットカードなどによって生存が確認できればいいという ような意見も上がったが,カードの使用による生存確認などは災害時でない時には逆にプライバシーの侵害になるため,実用的ではない. また,カードは家族で使っていたり,メールは複数のアカウントがあるなどの不都合があるということで, メールはマシンに対してではなく,人に対して送られるべきでは?という話にまで発展した.
以上の議論から、次のような提案がなされた。慶應義塾大学の米津 光浩氏より,「リゾームとしての インターネット」〜90年代サブカルチャーとしてのインターネット〜という 題で,WWWサーバのセキュリティ,商用に安心して使えるか?などのセキュリ ティに関する問題,ホームページは出版か放送か?リンクは引用か複製か?検 索した情報を公開してよいか?既成メディアによるホームページの権利侵害な どの著作権・倫理問題から話が始まった.また,有用な情報を如何に取り出 すか?ということで,高速な検索技術が必要であること.そのことにからめて, AIにとって,インターネットはToy Problemや積木の世界ではなく,大規模で オープンな世界であることから,今後のAIの研究対象とする世界が広がり,新 たな研究トピックも生まれるのではないかという話もあった.
一番大きな話題として,インターネットは文化として発達してきているという 話があった.学会ではあまり語られない,しかし学術団体などとは別側面から インターネットを支えているもの,研究でも商売でもなくインターネットを使っ ている人達,彼らを無視しては今後のインターネットを語れないのでは?とい う話である.
インターネット上では,子どもを体育館に集めて偉い人の演説を聞かせるよう なホームページはすたれる,また,既成のメディアは「買え!買え!」の大合 唱であり,そういうものに飽き飽きし た人がインターネットという等身大の メディアを楽しんでいるのに,インターネットまで「買え!買え!」に埋め尽 くさせていいのか? 何かを集めるということを一度もしたことのないような人達は,ブームでイン ターネットにとびついても,去っていくだろう.そういう人達をあてこんで 始めた商売も広告も,いずれすたれる.というような話であった.
最後に,本当にネットを必要としているのは,不登校の子どもたち,障害を持 つ人達,既成メディアに載らなかったものではないか,つまり 「何かに対して情熱を持っている人がインターネットに最後に残る」 というまとめで終った.
ディスカッションとして,「何かに対して情熱を持っている人がインターネットに最後に残る」ということならば,今後のインターネット上には,これから はゲームが多く出て来るであろうという話になった.インターネット上で行 なうマルチユーザ型のゲームである.しかし,やはり電話代が高いという敷居 があることが再度あげられた. ホームページの写真を勝手に雑誌の表紙に使われた話については,無断で広い社会に出されたのも問題であるけれども,彼女たちは裁判にまではしない.その前に,もう話題にされる のがいや.という現象も生み出している.
つまり,インターネットは発展途上であり,インターネットになると何をして いけないのかという意識が薄いため,そのような事態が起こるのであろう.と ようなことが話された.
ディスカッションCSony Computer Science Lab.の松田 晃一氏より,「インターネット上の共有 仮想空間」ということで,実際に研究されているバーチャルソサエティプロジェ クトの紹介にはじまり,「Cyber Passage」のサーカスパークのデモを見せて いただいた.
このデモは,サーカスパークの一日を描いたものである. 1人が1画面に対応しており,相手の姿が見え,対話もできる. 後ろからの声も入る.ボタンがついており,いろいろな表情も表現できる. この世界では,時間という概念もあり,朝にはじまり,空の色が段々と暗くなっていく. そして,一日一回パレー ドもある.もちろん,音も出せる.看板が他のURLなどになっていて,リンク がはってある.世界の電気を消したりつけたりするスイッチがある. という,非常に面白いものであった.
バーチャルソサエティの応用として,Internet 3Dマニュアル,Internet火災訓練, Internet放浪癖,Internet遠足(体の不自由な人もディズニーランドにいける!), Internet盆栽,Internet犬のブリーダ(日頃はローカルで育て,マルチユーザで品評会をする. ),Internet演劇,Internet私の部屋(好きなように内装を施して,人に見せる. ホームパーティを開く)などがあるのでは?という提案もあった.
ディスカッションとして,注目を集めたのは,この仮想社会において,戦争な どが起こってくるだろうということである.この世界でのモラル,法律ができ, インターネット上の警察も現れるだろう.いったいどのような世界ができるの か,現実と仮想との区別がつかなくなる可能性も考えられ,非常に恐いという 意見も出た.
ディスカッションのまとめコンピュータは,以前は自己満足の世界であったものの,インターネットの発 展に伴い,現在では世界へ大きく広がっていっている. 技術が先行しており,人間がそれについていっていないところがあることも事 実である.また,技術的なものを追っている部分から,法律など,倫理的な問 題が問われるようになってきている.
ここで,技術を「作る」側と「使う」側の見解の違いは大きく,作る側の責任 が問われる.
かつての科学者により発明された原子力が惨事を呼んだように,インターネッ トによって戦争が起きる可能性もある.技術者が誘導を行ない,ネットワーク を正しく使うという必要性を責任をもって伝える必要があるという意見が出た.
それに対し,技術者がどこまで責任を持つべきかという話があった.技術者 は「テクノロジー」は作っていくべきであるが,われわれが作った世界だから われわれが責任を持つという考えは,われわれがこの世界ではすべてであると いう考えに結び付きがちであり,危険であるという反対意見も出された.
「使う」側は,インターネットに対し,考え方が希薄であり,ネットワークを しっかりと把握しないうちに,乱用している.偽情報が行きかっていること から,「作る」側がそれに対してなにかすべきであろうか?という内容につい て,世界が滅びない程度の失敗を繰り返して,インターネット自身が成長して いけばよいという考えと,自分達が提供したテクノロジーをしっかりとサポー トする必要があるという考えがあった.
両者を合わせ持ちながら,インターネットは発達していくだろうというのが最 終的なまとめである.「Internet上の文化を作ろう」という提案がなされた. 最初は技術者中心になるのは仕方がなく,それから人が集まっていけば,自然 と発展していくだろう.われわれは,「文化の伝導師」となるという意見に対 しては,それでは,少しごう慢過ぎるきらいがあるとして,「文化の一端を担 おう」くらいの気持ちを持ちたいという結論に達した.米津氏の話にあった ように,「何かに対して情熱を持っている人がインターネットに最後に残る」 であろうことから,ユーザが増えて使っていくうちに勝手に発展していくのが 文化であるから,今それにのろうとしている人達への手助けができればわれわ れにとっては一番いいのではないか….それがわれわれにとって今一番大切な ことではないか.ということで,幕を閉じた.
なお,今年度若手の会に参加者は,「インターネット災害訓練に参加する」と いうアクションを起こすことにした.参加者を集めるということも行なう. より多くの人にインターネットを利用してもらうということで,インターネットを 広めるという役割も果たすことが出来る.
若手の会の意義を理解してくださり,御協力いただきました株式会社 ベルシステム24 に感謝致します.有難うございました.